がん専門治療

「がん」と動物たちの状況

「がん」と動物たちの状況
ペットの平均寿命が延びている現在、「がん=悪性腫瘍」は心臓病、腎臓病と並び、犬の3大疾病のひとつとなっています。そして、がんは死因のトップでもあり、獣医学の世界では特に重視されている疾患です。それだけがんになる犬や猫が増えている一方で、治療法も進化し続けている分野でもあるのです。以前は、見つかったときにはすでに手遅れの状態が多かったのが、いまや動物のがんも不治の病ではなく、ヒトと同様に早期発見から治療につなげ完治を目指したり、進行していてもなんらかの方法で進行を食い止めたり、延命が可能な病気となりつつあります。 当院では動物のがん治療のために最新の情報を集め、適切な治療を行えるように準備しています。目標としているのは、動物たちが元気な時から診ているかかりつけ医として、早期発見に尽力し、早期に専門治療を行うことです。治療が困難ながんや飼い主様の希望がある場合にはに、二次診療の病院を紹介しています。 当院院長は、現在の「日本獣医がん学会」の前身の「日本獣医がん研究会」時代からの立ち上げメンバーであり、これまでのがん治療の多くの経験を基に、現在も毎年2回のがん学会で最新情報を更新し続けています。

「がん」の原因と早期発見

犬のがんの原因としては、遺伝的な要因があります。たとえば、フラットやバーニーズに組織球系腫瘍が多いことや、パグやレトリバーに肥満細胞腫が多いこと、ビーグルに甲状腺癌が多いこと、シェルティーに膀胱癌が多いことなどです。したがって、愛犬の家族歴・病歴を知っておくのも参考になるでしょう。加えて、年齢ががんの発生に大きくかかわっています。ペットの長寿化により、人と同様にペットにもがんが増えてきたと言えるのでしょう。犬や猫のがんの早期発見には、やはり定期的な健診が有効です。犬や猫の時間は人間よりも数倍早く進むので、特に7歳以上のシニア犬になったら、1年に2回の定期健診が望ましいでしょう。シニア向けの健診メニューにはレントゲンやエコーなどの画像診断を組み入れることをお勧めします。異常の見つからなかった健診結果も次回の健診時の比較対象として重要なデータとなるのです。健診はがんを発見するだけでなく、継続的な健康状態を知るために必要なものなのです。

  • 食欲がない さまざまな病気の可能性が考えられます。
  • よく吐くことがある 肥満細胞腫、胃のがんの可能性
  • 下痢や下血が続いている 直腸がんの可能性
  • 排便に時間がかかる 直腸のがん、直腸を圧迫するがんの可能性
  • 血尿や少ない量での回数の多い排尿が続く 膀胱がんの可能性
  • お腹が腫れた気がする 腹腔内のがんの可能性
  • 片足を引きずって歩く 骨や関節のがんの可能性
  • 口臭やよだれがひどくなった 口腔内のがんの可能性
  • くしゃみ、鼻水、鼻血がよく出る 鼻のがんの可能性
  • 咳や呼吸の荒いことが増えた 肺のがんの可能性
  • 皮膚炎や潰瘍が治らない 皮膚のがんの可能性
  • 最近、急に脱力してへたり込んだことがある 腹腔内のがん破裂の可能性
  • 過去に腫瘍が出来たことがある 再発・新病変の可能性
  • 気になるしこりがある さまざまながんの可能性
  • 食事時間がかかり、食べこぼすようになった 口腔内のがんの可能性
  • その他気になる症状がある さまざまながん(病気)の可能性
  •  
  • 愛犬は7歳以上だ がんの好発年齢

「しこり」について

「しこり」について
もうひとつ、飼い主さまができることとしてアドバイスするのが、「しこり」の発見です。実は、がんの半分以上は、外から触ってしこりとして発見できるものです。日頃から、スキンシップで体中を触ることにより、しこりを早めに見つけることができます。その大きさや硬さ、経過(大きくなる)などの様子を見て、状況を記録しておくとよいでしょう。さらに、急激に大きくなったなど気になるがあれば、すぐに受診しましょう。犬や猫にとって、こうしたスキンシップは飼い主さまとの大事なコミュニケーションであり、しこりも早期発見できる大事なヘルスチェック項目でもあります。

しこりを発見したら

飼い主さまがしこりを見つけたら、受診の際に以下のことをお聞きします。

  • いつ頃、見つけたか?(何年も前、ごく最近など)
  • 大きくなった速度は?(ゆっくり、急速になど)
  • 増大、縮小を繰り返しているか?
  • 痛みや痒みがあるか?
    しこりの状態を把握し、実際に触診などを経て、しこりの正体をつきとめていきます。

当院では「しこりを見つけたらすぐに手術」とはしていません。視診、触診、経過などから必要に応じて細胞診検査に進みます。それにより、お薬などの内科療法で対応できるのか、早めに外科療法に移った方が良いのか判断するのです。腫瘍が疑われる場合や手術に進む場合などは、全身状態の把握や腫瘍の進行度の把握のために血液検査や画像診断に進みます。

1. カウンセリング:お話をきかせてください。 

1カウンセリング

お話しを聞かせてください。しこりのヒストリー(いつ見つけたのか?増大傾向は?など)や、気になっている症状を教えてください。
2. リンパ節チェック、全身状態 しこりの大きさ、部位、硬さなどを診ます

2しこりのチェック

大きさ、部位、硬さ、周囲組織との固着などを確認します。同時に切除が可能なのか?手術の見積もりもしています。
3. 触診を行い転移の確認をします。

3

超音波検査でしこりの内部の状態やリンパ節、周囲組織の状態をチェックします。胸の中やお腹の中のしこりは超音波で確認しながら細胞診します。
4. 画像診断、レントゲン検査を行います。

4

細胞診は細い注射針でしこり内部の細胞を採取します。通常は麻酔の必要はありません。採取した細胞はその場で染色し、当院では約15分で判定します。
5. 細胞診をします(しこりの細胞を細い注射器でとります) 

5

レントゲン検査でリンパ節や肺などへの遠隔転移の有無を確認します。これによりがんの進行度(ステージ)分類するのです
6. 超音波検査で、しこりの内部の様子や、転移の状態をチェックします。

6

全身のチェックや血液検査から全身状態を評価します。手術や治療に耐えられる体力があるのか見極めます。
7. 飼い主さんと一緒に治療方針を決めていきます。

7

全てのデータを総合し、どの様ながんが疑われるのか?その進行度からどの様な治療の選択肢があるのかお話しし、飼い主さんと一緒に治療方針を決定します。

詳しい検査について

健康チェックや血液検査までは基本健診となりますが、それ以外には、以下のような特殊検査を行い、がんかあるいはそれ以外の疾患かの特定や治療法の決定に役立てます。

画像検査

  • 消化管造影レントゲン検査(バリウム造影)
    →胃内の詳細をチェック
  • 経静脈尿路造影X線検査
    →造影剤により、尿路をチェック
  • 【CT・MRI検査】
    →全身麻酔下で、脳・神経系の腫瘍、全身への伝播(広がり)などの精査を行う。大学病院等の専門施設をご紹介

細胞診・病理組織検査

  • 細胞診
    →細い注射針でしこり内の細胞を採取し、顕微鏡で観察します。体表の腫瘤であれば多くは無麻酔での検査が可能です。特徴的な細胞が採取された場合には、その場で診断が確定する場合もあります。判断の難しい場合には、ガラス標本を検査センターに送り、診断を依頼します。確定診断までできないことが多いですが、治療方針が見えてくるのです。
  • 組織生検
    →細胞診で悪性腫瘍は疑われるが手術前に診断名を着けておきたい場合や、診断により治療法が変わってくる場合には、麻酔をかけて腫瘍組織を採取して組織生検を行うことがあります。診断名が変わっても治療法が大きく変わらない場合には、術前の組織生検はせずに、手術などの治療に進みます。
  • 病理組織検査
    →手術により切除した腫瘍組織を病理組織検査に出します。診断名の確定のほか、マージン判定(取り残しがないか)、腫瘍のグレード判定(悪性度のチェック)などを行う。それにより、その後の術後補助療法(抗がん剤治療など)の必要性を検討します。

がんと診断されたら

検診などの結果、がんの可能性が高いと疑われる場合、さらに精査してその状態を把握します。早い段階で院長が診断を下したなら、当院でできるあらゆる状況を考慮して治療の方向をある程度定めたうえで、飼い主さまとのご相談になります。

がんの治療法としては、犬や猫の場合も基本的には人間同様、①外科的療法=手術、②化学療法=抗がん剤治療、③放射線療法の3大治療がメインとなります。当院では①と②の治療をできる範囲で行います。さらに大がかりな手術や③の放射線治療が必要な場合には、設備の整った二次診療施設(大学附属動物病院など)に依頼することになります。

治療法 治療内容 長所 短所
1.外科療法
(当院で行います)
手術により腫瘍を切除。通常はがんの治療の第一選択。 早期の腫瘍切除で根治の可能性あり。各治療法の中で最大の効果。 拡大切除により機能障害が起こる可能性あり。手術費用は高いが、一回の手術で根治するならトータルでは安いかも。
2.放射線療法
(大学病院で行います)
放射線を照射し腫瘍の増大をゆっくりさせる。外科切除後の残存細胞を死滅させる。 外科切除が難しい部位に照射し、機能を温存することが出来る。 放射線障害がでる可能性あり。
放射線治療設備が必要。複数回の全身麻酔下での照射が必要。費用は高額になる。
3.化学療法
(抗がん剤治療)
外科・放射線療法後、再発や転移の可能性がある場合などに行う補助的な治療。 抗がん剤が効きやすいリンパ腫などには第一選択治療。 固形がんに対して単独では効果ない。抗がん剤の副作用のリスクあり。薬の種類や治療回数によっては高額になることもる。

いずれにしても、がんと診断が下っても、がんの進行度や悪性度、患者の犬や猫の状態や

性格、飼い主さまの治療方針のご希望など、あらゆる要素を考慮して、いくつかの治療の選択肢を提示いたします。早期発見の場合には、完治を目指した積極的な治療をお勧めします。また、ステージⅡ~Ⅲの進行度であれば、可能性に賭けた積極的な治療や、QOL重視の治療などをお選びいただきます。さらに進行した状態であれば体調の維持を重視し、がんとの共存しながら自宅で穏やかに過ごせるようにサポートします。さまざまなケースを扱うなかで、最終的に目指すべきは、入院で時間を浪費することよりも、がんの犬や猫ができるだけ副作用を出さずに、自宅で飼い主さまと一緒にいつも通りに暮らせることだと当院では考えています。家族ともに、いつもと同じような生活が送れるようにサポートすることで患者の免疫力が上がり、寿命が延びる可能性が見込める点を重視しているからです。愛犬・愛猫ががんと診断されたら、飼い主さまは迷ったり悩んだりすることが多いかもしれませんが、決して悲観せずに、私たちと一緒に治療に前向きに臨んでください。ご質問、ご希望があれば、どうぞご遠慮なくお伝えください。ともに道を探していきましょう。

 

がんの治療法

外科療法=外科手術(当院にて実施)

外科療法については、がんの病巣を手術で完全に取ってしまえるものはそれがベストと考えられる場合に適用するとともに、予後も含めて検討します。たとえば、転移のない骨肉腫の場合、手術でがんのある脚を断脚しても、その後残った3本の脚で十分生活の質が保てる場合が多いからです。 手術で切除といっても、一般の手術とは異なります。悪性腫瘍=がんの場合は、周辺組織への浸潤性(しみ込むようにまわりに広がる性質)が高いため、広範囲の切除が必要です。もし腫瘍細胞を取り残すと再発を起こし、難易度が高まる再手術の危険性も。腫瘍切除には解剖学的な知識や術創を問題なく閉じるための技術、的確な麻酔管理が必要とされるなど、特殊な手術となります。そのために、院長以下、知識や技術が備わった手術助手など数名のチームで取り組み、手早く、的確に腫瘍切除の手術を成功させます。

化学療法=抗がん剤治療(当院にて実施)

通常、抗がん剤治療は外科手術後の補助療法としてのほか、転移がんの手術後や高齢で麻酔下での手術に懸念がある場合などにおいてがんを抑えていく方法として選択します。 リンパ腫など全身に関わるがんでも抗がん剤が主な治療方法として有効です。たとえば、アメリカの大学では、犬のリンパ腫にどの薬剤をどれだけ使うか、といったプロトコール(治療計画および標準治療法)が決められています。当院では、各種抗がん剤の特徴を踏まえたうえで、抗がん剤を使用する腫瘍のタイプやその時々の患者の状態に即した療法、いわばオーダーメイドのプロトコールで抗がん剤治療を実践しています。 抗がん剤治療の場合、注意すべきなのは起こりうる副作用についてといえます。抗がん剤による副作用で顕著なものは、脱毛・胃腸障害・骨髄抑制の3点です。どんな症状が出ると予想されるか、固体差があることなど、副作用の詳細について飼い主さまに必ず説明し、使用の了解を得ることを優先しています。 通常、軽めの抗がん剤から始めて、副作用もなく元気なら薬の段階を上げていくなど、ほぼ各患者についてオーダーメイドの治療を行うことで様子をみていきます。しかも、愛犬、愛猫が辛い治療を受けていると感じる飼い主さまの気持ちにも寄り添うことを、ここでも重視しています。

放射線療法(外部病院にて実施)

手術が難しい部位や手術では危険性のある場合には、放射線療法で治療します。特殊な機械で放射線を照射し、腫瘍を小さくしたり、大きくなる速度を遅くしたり、痛みを和らげるなどの効果が期待できる方法です。ただし、全身麻酔が必要となるので、それが可能な患者であり、さらに1カ月に数回の照射を行うことが前提です。放射線治療が有効と診断したら、国内最高レベルの装置を備えている麻布大学腫瘍科をご紹介しています。

栄養管理(自宅にて実施)

がんが進行した犬や猫には、栄養管理も重要な治療法のひとつです。その体内では食べ物からの栄養がうまく吸収できず、痩せていってしまう状態に陥ります。そこで、がん細胞が利用しやすい栄養素(糖や炭水化物)を減らしながら、がんに効果があるといわれるオメガ3脂肪酸を加えるなど、バランスのとれた栄養管理と療法食の指導を行い、適切な食生活でがんの進行を抑えるサポートを行います。

犬の3大疾病

犬の3大死亡原因のひとつである「悪性腫瘍=がん」。大切な家族であるペットの命を救うには飼い主さんのスキンシップが重要です。
犬の3大疾病

がんは触って発見できるものが半分以上です。日頃のスキンシップで体中触ってあげることが大切です。外から触ることのできない胸の中や、お腹の中のがんを早期発見するにはレントゲン検査や超音波検査などの画像診断が役立ちます。初期のがんでは血液検査に異常が出ることはほとんどありませんので、7歳以降の中高齢期には画像検査を組み合わせた検診をお勧めします。

ペットにとっての時間を大切に

ペットの平均寿命が延び、犬では人と同様にがんが死因のトップとなっています。がんは心臓病や腎臓病と同様に年を取れば誰もがかかる可能性のある慢性疾患のひとつと言えます。「がん」という言葉には「不治の病」というイメージがありますが、早期発見・早期治療により完治の可能性もある病気なのです。

しこりは全てがんなの?

しこりを見つけたら以下のことを教えてください。
  • いつ頃見つけたのか?(何年も前/ごく最近)
  • 増大速度は?(ゆっくり/急速)
  • 増大や縮小を繰り返してないですか?
  • 痛みや痒みはないですか?

進行度で治療方針が変わってくる

同じがんの病名でもその進行度によって治療方針を変える必要があります。
早期に発見できた場合には完全切除により完治を目指します。
がんが増大して周囲組織に浸潤したり、領域リンパ節に転移が認められるステージⅡ~Ⅲの段階では、がんの拡大切除と術後の補助療法を組み合わせることで可能性に掛けた治療を行います。患者の状態や飼い主さんのご希望により、がんとの共存を考えた方が有利なこともあります。
遠隔転移の認められる進行したがんの場合には、完治を目指そうとするとかえって患者を弱らせてしまうことになりかねません。患者のQOL(生活の質)の維持を第一に考え、がんとの上手な共存を目指します。
このようにがんの進行度により適切な治療方針を立てることが大切なのです。
  • 045-960-0199
  • お問い合わせ
  • pagetop