当院の歯科診療の考え方
「口が臭う」「食べこぼすようになった」。歯石だろう、歳のせいだろう——そう思っていたものが、実は歯を支える骨が溶けるところまで進んだ歯周病だった。あるいは、口の中にできた腫瘍だった。犬や猫の口の中では、そういうことが起こります。
犬や猫は「痛い」と言いません。むしろ、痛みを隠して普段どおりに振る舞おうとします。飼い主さまが気づかれる頃には、かなり進行しているのが実情です。
当院が歯科診療で目的としているのは、歯石を取ることそのものではありません。その子が痛みなくごはんを食べ、これからも家族と穏やかに暮らしていけること。そのために、いま何を調べ、何を処置すべきかを組み立てます。
当院は開院以来、歯の病気について次のようにお伝えしてきました。
犬では約3日で歯垢から歯石に変わると言われていますので、週に1回の歯磨きでは間に合わないのです。歯を残すためには早めの処置がお勧めです。
歯石は、ついてしまえば歯みがきでは取れません。そして一度溶けた骨は、二度と戻りません。歯科において「早め」がこれほど重要な分野はほかにない、というのが私たちの実感です。
「歯石取り」と「歯周病の治療」は違います
多くの飼い主さまが「歯石を取ってもらう」という言い方をされます。しかし歯科処置の本体は、目に見える歯石を落とすことではありません。
歯周病の原因菌が実際に活動しているのは、歯茎に隠れた歯周ポケットの中です。見えている歯の表面をどれだけきれいにしても、ポケットの中を処置できなければ、病気は進み続けます。逆に言えば、ポケットの中を1本ずつ測り、清掃するためには、どうしても全身麻酔が必要になります。
麻酔をかけずにできることと、麻酔をかけなければできないこと。この線引きをご理解いただくことが、納得のいく選択につながります。当院が検査の説明に時間をかけているのは、そのためです。
当院の歯科診療 三つの柱
1.なぜ、腫瘍科の獣医師が歯科を診るのか
「がんの専門家が、なぜ歯科なのか」と思われるかもしれません。しかし、この二つは切り離せない関係にあります。
口の中は、体の外から直接のぞける数少ない粘膜面であり、同時に、メラノーマ(悪性黒色腫)、扁平上皮癌、線維肉腫といった腫瘍が犬にも猫にも発生しやすい場所です。やっかいなのは、それらが初期には「歯茎が腫れている」「歯がぐらつく」「口が臭う」という、歯周病とほとんど見分けのつかない形で現れることです。歯周病として処置を続けているうちに診断が遅れる——これが実際に起きています。
院長は、日本獣医がん学会の獣医腫瘍科認定医Ⅱ種を取得しています。加えて、2001年から2005年までの5年間、麻布大学附属動物病院腫瘍科の専科研修医(レジデント)として研鑽を積み、現在の日本獣医がん学会の前身である「日本獣医がん研究会」時代からの立ち上げメンバーの一人として、日本の獣医がん医療の創成期からペットのがん治療に携わってまいりました。現在も毎年のがん学会に参加し、最新の知見を更新し続けています。
そのため当院では、麻酔をかけて歯科処置を行う際、必ず口の中全体を精査します。少しでも腫瘍を疑う所見があれば、その場で細胞診(細い針で細胞を採って調べる検査)に進みます。院内で染色して約15分で判定できる体制があるため、「疑わしいから念のため調べておく」という判断がしやすい。この判断の速さが、口の中の腫瘍では予後を大きく左右します。
そして万一それが悪性だった場合も、外科療法・化学療法まで、担当医が替わらないまま同じ院内で進められます。歯石除去のつもりで麻酔をかけたら腫瘍が見つかった、というとき、改めて別の病院で一から説明を受け直していただく必要はありません。
2.医療用麻薬を含む、切れ目のない痛みの管理
抜歯は、口の中という敏感な場所に外科的な傷をつける処置です。痛みの管理が、そのまま回復の速さになります。
院長は、重度な痛みに対応するための麻薬施用者免許を取得しており、モルヒネ注射やフェンタニルパッチなどにより効果的な鎮痛を実施しています。歯科処置では、痛みが生じる前にブロックする先制鎮痛(先取り鎮痛)を手術前から始め、術中・術後まで切れ目なく続けます。目指すのは、処置を終えたその日のうちにごはんを食べられる状態です。
さらに近年は、1回の注射で約1か月間痛みを緩和する抗体医薬を導入しています。痛みにターゲットを絞って効果を発揮するため副作用が出にくく、長期間の鎮痛剤投与による腎障害や胃潰瘍のリスクが問題となる高齢の子にも使いやすい治療法です。承認されている効能は関節炎の痛みですが、猫の難治性口内炎の鎮痛にも、効能外の使用として選択できます。効能外の使用となる場合は、その旨と期待できる効果・注意点を事前にご説明し、ご了解をいただいたうえで使用します。
痛みを抑えることは、苦痛をやわらげるだけでなく、回復を早めます。そして麻酔薬の使用量そのものを減らせるため、体への負担も軽くなります。
3.獣医師2名体制で、麻酔に向き合う
「歯石を取るだけなのに全身麻酔が必要」。この一点で足が止まってしまう飼い主さまは、とても多くいらっしゃいます。
当院には、2006年の開院時から在籍する獣医師を含め、常勤の獣医師が2名おります。歯科処置では、術者が口の中の処置に集中し、もう1名が麻酔の深さとモニターの監視に専念します。処置そのものと同じだけの注意を、麻酔管理に向けるためです。
処置中は麻酔器と生体モニターで、心拍・血圧・酸素飽和度・呼気中の二酸化炭素濃度・体温を継続的に監視します。気管にチューブを入れて気道を確保し、洗浄水が肺に入るのも防ぎます。
そのうえで、CT検査を要する広範な顎の骨の病変、高度な口腔外科手術、放射線療法が必要と判断した場合には、院長の研修先でもある麻布大学附属動物病院など、連携する二次診療施設にご紹介します。受診後は専門医と連携しながら、引き続き当院で診療を継続します。
「自分の家族ならどうするか」——院長より
当院が開院以来ずっと大切にしてきたのは、「自分が飼っている犬や猫=家族ならどうするか」という視点です。歯科においても、それは変わりません。
歯石を取るために麻酔をかけ、口の中を隅々まで見たことが、腫瘍の早期発見につながった。そういうケースは、決して珍しくありません。裏を返せば、口の中を一度もしっかり見ないまま何年も過ぎてしまうことのリスクを、私は日々の診療の中で強く感じています。
同時に、歯科は飼い主さまとの二人三脚でなければ成り立たない分野でもあります。犬では、歯垢はわずか約3日で歯石に変わります。病院でどれほど丁寧に歯石を取っても、ご自宅でのケアがなければ、また同じところに戻っていく。ですから当院では、処置の技術と同じくらい、ご家庭でのケアの指導に時間をかけています。
そして、歯みがきが「しなければならない義務」になってしまうと、続きません。飼い主さまが疲れてしまえば、その子のケアも止まります。だから当院は、理想を押し付けません。今できる段階から、その子の性格とご家族の生活リズムに合った方法を、一緒に見つけていきます。
こんなサインが見られたらご相談ください
歯科のご相談は、「もう食べられなくなった」と感じてからでは遅すぎることがあります。以下のようなサインが見られたら、まだ元気に見える段階でも、一度ご相談いただくことをお勧めします。早めにご相談いただくことで、抜かずに残せる歯が増え、麻酔の時間も短くて済むからです。
まず、この3つ
1. 口臭が強くなった/よだれが増えた
2. 食べるのに時間がかかる、食べこぼす
3. 顔まわりを触られるのを嫌がるようになった
このうち1と2は、進行した歯周病のサインであると同時に、口の中にできる腫瘍でも高い頻度で見られる症状です。当院のがん専門治療のページで、がんの可能性が考えられる症状として「口臭やよだれがひどい」を挙げているのも、この重なりがあるためです。歯石のせいだろう、と自己判断なさらないでください。
お口・お顔のサイン
- 歯茎が赤く腫れている、触ると血がにじむ
- 歯に茶色や黄色の歯石が付着している
- 目の下や頬、あごのラインが腫れている
- 歯がぐらぐらしている、抜けた歯があった
- くしゃみ、鼻水、鼻血が続いている
食べ方のサイン
- ドライフードを食べたがらない、ふやかさないと食べない
- 食べるときに顔を傾ける、片側だけで噛んでいる
- 食欲はあるのに食器の前で止まってしまう
- おやつやおもちゃへの反応が鈍くなった
しぐさ・行動のサイン
- 前足で口のまわりをしきりに気にする
- 口を床やソファにこすりつける
- あくびをしたときに「キャン」と鳴くことがある
- (猫)毛づくろいをしなくなって毛並みが乱れてきた
猫は犬以上に痛みを隠す動物です。口が痛くても食べ続けてしまうことが多く、「よだれが増えた」「食器の前でためらう」といったささいな変化が、実は強い痛みのサインであることが少なくありません。
また、症状に限らず「他院で抜歯を勧められたが迷っている」「高齢で麻酔が心配だが、口臭が気になる」といったお悩みのご相談も承っています。かかりつけが他院の場合でも、これまでの検査データをお持ちいただければセカンドオピニオンとして対応いたします。
歯科における検査の考え方
歯科の検査は、麻酔をかけずにできることと、麻酔をかけなければできないことにはっきり分かれます。当院はかかりつけ医として、必要最小限の検査で合理的な診断を目指すことを方針としており、一律のフルコースをお勧めすることはありません。
麻酔をかけずに行うこと
問診・カウンセリング:いつ頃から症状に気づかれたか、食べ方はどう変わったか、これまでのデンタルケアの状況、既往歴や飲んでいるお薬。歯周病は進行の速さに個体差が大きいため、経過の情報が方針を決める重要な材料になります。
視診・触診:歯石の付着量、歯茎の炎症の程度、ぐらついている歯の有無、口臭、顔の腫れ、あごの下のリンパ節。あわせて、口を開けたときの反応から痛みの程度も評価します。ただしここで得られるのは、口の中の「表面」の情報です。
麻酔前検査:全身麻酔に耐えられる状態かを判断するために、血液検査(貧血・炎症・肝機能・腎機能)を行い、必要に応じて胸部レントゲン検査を行います。心臓の病気が疑われる場合や高齢の子では、心臓の超音波検査を追加します。ここで麻酔のリスクを具体的に見積もり、お伝えしたうえで処置日を決めます。
麻酔をかけて行うこと
ここからが歯科診療の本体です。
口の中全体の観察:歯だけでなく、歯茎、頬の粘膜、舌の裏側、上あご、のどの奥まで見ます。しこりや潰瘍、粘膜の色の変化を見逃さないための工程です。
レントゲン検査:重度の歯周病がある場合や口腔腫瘍が疑われる場合には、頭部や胸部のレントゲン検査を行います。
細胞診・組織生検:しこりや治りにくい潰瘍が見つかった場合、細い針で細胞を採って調べます。院内で染色し、約15分で判定できます。それでも判断が難しい場合や、診断名によって治療方針が変わる場合は、麻酔下で組織を採取し、専門の検査センターへ提出します。
CT検査(連携施設にて):腫瘍が顎の骨に広く入り込んでいる場合や、鼻の中まで病変が及んでいる可能性がある場合には、立体的な広がりを把握するためにCT検査が必要です。歯牙処置により口腔腫瘍が急速増大することもありますので、歯の処置の前に広がりを確認します。CT検査は麻布大学附属動物病院など連携する二次診療施設にご紹介して実施し、結果をもとに当院で方針をご相談します。
「検査のための検査」は行いません。その検査結果が処置の内容を変えるかどうかを基準に、必要な項目を選んで実施します。
口の中に多い病気
犬の場合
犬の口の病気は、圧倒的に歯周病が中心です。3歳以上の犬の約8割が何らかの歯周病を抱えているとされ、とりわけ小型犬では顎の骨に対して歯が大きく、歯と歯の間隔が狭いため、歯垢が溜まりやすく進行も早い傾向があります。
歯周病(歯肉炎・歯周炎):炎症が歯茎にとどまっている段階なら、適切な処置とホームケアで元に戻せます。しかし歯根膜や歯を支える骨(歯槽骨)にまで及ぶと、溶けた骨は自然には戻りません。歯周病で「早期」が決定的に重要なのは、この一線があるからです。
歯根端膿瘍:歯の根の先に膿がたまり、その圧力で上あごの骨を突き破って、目の下の皮膚に穴が開くことがあります。皮膚病だと思って来院され、実は上の奥歯の歯周病が原因だった、というのが典型的な経過です。原因の歯を抜かない限り、抗生剤で一時的に良くなっても必ず再発します。
口鼻腔瘻:上あごの犬歯などの周囲の骨が溶け、口と鼻の間に通り道ができてしまう状態です。くしゃみ、鼻水、鼻血が続き、水を飲むと鼻から出てくることもあります。抜歯とあわせて、歯茎の一部を移動させて穴をふさぐ手術が必要です。なお、くしゃみ・鼻水・鼻血は鼻腔内腫瘍でも見られる症状ですので、当院はこの鑑別を念頭に検査を進めます。
歯冠破折:硬いおやつ、ひづめ、鹿の角、石などを噛んで歯が折れる事故です。神経が露出していると激しい痛みを伴い、そこから細菌が入って歯根端膿瘍へ進行します。歯髄炎を起こした場合には抜歯が必要となりますので、硬すぎるものを咬ませないことが大切です。
乳歯遺残:生後7か月頃を過ぎても乳歯が抜けずに残る状態で、小型犬の犬歯に多く見られます。乳歯の圧迫で永久歯の生える向きが変わったり、永久歯との間に歯垢が溜まり、若いうちから歯周病が始まる原因になります。当院では避妊・去勢手術の際に口の中を必ず確認し、必要があれば同じ麻酔で同時に抜歯します。麻酔の回数を増やさずに済むため、体にも家計にも負担の少ない方法です。
抜歯する乳歯の数が多い場合や犬歯の抜歯後のフラップ縫合が必要となる場合には、鎮痛にモルヒネやフェンタニルパッチも準備いたします。
口腔内腫瘍:悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮癌、線維肉腫といった悪性腫瘍のほか、比較的おだやかに経過するエプリスなども発生します。歯茎の一部が盛り上がる、理由もなく歯がぐらつく、口から出血する——これらは歯周病でも腫瘍でも起こります。
猫の場合
難治性口内炎:猫に特有の、非常に痛みの強い病気です。歯茎だけでなく、頬の粘膜やのどの奥まで真っ赤に腫れ上がり、ひどい口臭とよだれ、体重の減少を伴います。食べたいのに痛くて食べられず、食器の前で鳴く。この行動が特徴的です。
全臼歯抜歯あるいは全顎抜歯という治療法がありますが、歯がなくなっても痛みが続くこともあり厄介な病態です。痛み止めやインターフェロン療法も併用しながら治療します。
当院はこの病気に、「痛みを取る」という側からも取り組んでいます。1回の注射で約1か月間痛みをやわらげる抗体医薬は、猫の難治性口内炎の鎮痛にも効能外の使用として選択できます(事前にご説明し、ご了解をいただいたうえで使用します)。外科に踏み切る前の期間を支える目的でも、外科と組み合わせる目的でも使えます。「手術か、我慢か」の二択ではありません。
歯の吸収病巣:猫のおよそ3〜7割が罹患するとされる、猫にきわめて多い病気です。歯が内側から溶けていき、露出した象牙質が強い痛みを引き起こします。あくびや食事の際に「カチカチ」と歯を鳴らす、急に頭を震わせる。こうした行動が特徴です。溶けてしまった歯は元に戻らないため、痛みの強い場合は抜歯が基本的な治療になります。
歯周病:猫も犬と同様に歯周病になります。犬に比べて歯石の量そのものは少ないことが多いのですが、歯茎の炎症は強く出やすい傾向があります。
口腔内腫瘍(扁平上皮癌など):猫の口の中の腫瘍で最も多いのが扁平上皮癌です。舌の下、歯茎、下あごなどに発生し、進行が速く、周囲の骨に入り込みやすい性質があります。初期には歯茎の腫れや口臭といった、歯周病と区別のつかない症状で現れるため、「歯周病の治療をしているのに一向に良くならない」という経過をたどることがあります。当院では、経過が典型的でない症例、治療への反応が乏しい症例については、早い段階で細胞診・組織生検を検討します。
また、猫にとって通院はそれ自体が大きなストレスです。当院では、お家以外の場所が苦手なネコちゃんのために予約診療の枠もご用意していますので、ご相談ください。
当院で行う処置の内容
1.スケーリング(超音波による歯石除去)とポリッシング
超音波スケーラーで、歯の表面と歯周ポケットの中の歯石・歯垢を取り除きます。重要なのは、目に見える歯の表面(歯肉縁上)だけでなく、歯茎に隠れたポケットの中(歯肉縁下)まで確実に清掃することです。
処置後は必ずポリッシング(研磨)を行い、器具でついた微細な傷を滑らかにして、歯垢が再び付きにくい状態に仕上げます。
2.抜歯と口唇粘膜フラップ縫合
骨の吸収が進んで支えを失った歯、根の先に膿がたまっている歯、折れて神経が露出したまま時間が経った歯。これらは抜歯が最善の選択になります。
上顎の犬歯は抜歯後に口鼻腔瘻になることが多いので縫合を行います。歯茎は可動性が少ないため大きな穴を閉じるために引っ張ることができません。そこで上唇粘膜にフラップを形成して穴を閉じる口唇粘膜フラップ縫合術を行っています。この縫合の丁寧さが、術後の治りの良さと痛みの少なさを大きく左右します。当院が時間をかけているのはこの工程です。多数の抜歯が必要な場合や、骨を削る処置が必要な場合も対応いたします。
3.口腔内腫瘍に対する外科療法・化学療法
腫瘍の外科切除は、一般の手術とは考え方が異なります。周囲の組織へしみ込むように広がる性質(浸潤)を計算に入れ、見えている腫瘍より広い範囲を切除する必要があるからです。取り残しがあれば再発し、二度目の手術はさらに難しくなります。
切除した組織は病理組織検査に提出し、診断名の確定に加えて、マージン判定(取り残しの有無)とグレード判定(悪性度)を行い、術後の追加治療の必要性を検討します。化学療法は、腫瘍の種類・進行度・その子の全身状態に合わせたオーダーメイドのプロトコールで組み立てます。
放射線療法が有効と判断される症例や、当院の設備では難しい大規模な口腔外科手術については、連携する二次診療施設にご紹介します。院長自身が5年間在籍した施設ですので、そこでどのような検査・治療が行われるのかを、事前に具体的にご説明できます。ご紹介後も当院が主治医として関わり続けます。
4.痛みの管理
すべての歯科処置で、先制鎮痛を手術前から始めます。処置中は麻酔で痛みを感じませんが、目が覚める前に術後の鎮痛を追加し、痛みの波が来ないようにします。予想される痛みの強さに応じて薬を選び、大きな処置では医療用麻薬やフェンタニルパッチなど、より強力な方法を用いることもあります。
ご相談から処置後までの流れ
STEP1 ご相談・ご予約
まずはお電話(045-960-0199)、Web予約、または公式LINEからご連絡ください。当院は予約優先制です。当院に通院中の方はもちろん、他院にかかりつけがある方のセカンドオピニオンのご相談も承ります。
「まだ処置を受けると決めたわけではないが、今どういう状態なのか知っておきたい」という段階のご相談も歓迎します。
STEP2 初回カウンセリング・麻酔をかけない診察
症状に気づかれた時期、食べ方の変化、これまでのケア、既往歴を詳しく伺います。そのうえで、麻酔をかけずにできる範囲の視診・触診を行い、おおよその重症度と、想定される処置の内容・費用の見通しを、専門用語を避けたわかりやすい言葉でご説明します。
ここで結論を急いでいただく必要はありません。ご家族でご相談のうえ、後日ご連絡いただいて構いません。
STEP3 麻酔前検査
血液検査と必要に応じてレントゲン検査等を行います。麻酔のリスクを評価し、安全に進められるかを判断します。数値に懸念がある場合は、まず内科的に状態を整えてから処置日を設定することもあります。
STEP4 処置当日
前日の夜からの絶食をお願いします(お水は通常どおりで構いません)。朝にお預かりし、鎮静と先制鎮痛を行ったうえで全身麻酔を導入します。
麻酔下で口腔内を精査し、事前の説明と大きく異なる所見が出た場合は、その場でお電話し、ご了解をいただいてから進めます。目が覚めてから「こんなに抜かれていた」ということがないようにするためです。
その後、スケーリング、必要な抜歯と縫合、ポリッシングを実施。同時に口の中全体を精査し、しこりや潰瘍があれば細胞診等を追加します。
STEP5 お迎えとご説明
処置の終了後は報告のお電話をいたします。その後点滴をしながら麻酔から安全に覚めるまで院内でお預かりします。高齢であったり、長時間の処置であった場合には一泊入院をしたり、翌日に来院していただくこともあります。
お迎えの際には、実際に行った処置の内容、抜いた歯の本数とその理由、レントゲン画像などをご覧いただきながらご説明します。鎮痛薬・抗生剤などをお渡しし、抜歯を行った場合は数日間やわらかい食事に切り替えていただきます。当日の夜から普通に食べられる子も多くいます。
STEP6 再診と、ホームケアのスタート
処置からおよそ1週間後に再診し、歯茎の治り具合と縫合部を確認します。傷が落ち着いたことを確認したうえで、歯みがきのうまくできない子にはデンタルケア・スターターキットをお渡しし、その場で1回目の歯みがきを一緒に行います。
やり方を口頭で説明するだけでは、ご自宅で続かないことが多いためです。その子の性格と生活リズムに合った方法を見つけてから、再発予防を始めます。インターフェロン療法を追加することで歯周病の再発を遅らせることができると言われています。その後は年1〜2回の定期チェックをお勧めしています。
ご家庭でできること
毎日のスキンシップの中で、口を見る
がんの半分以上は、外から触ってしこりとして発見できます。口の中も同じです。特別な時間を作る必要はありません。抱っこしているとき、なでているときに、くちびるを軽くめくって歯と歯茎を見る。これが最も確実な早期発見の方法です。
見るポイントは4つ。①歯茎の色(健康なピンクか、赤く腫れていないか)、②歯石の付き方(特に上あごの奥歯の外側)、③左右差(片側だけ腫れていないか)、④しこりや潰瘍の有無。
スマートフォンで月に一度撮っておくと、変化に気づきやすくなります。診察の際にその写真をお見せいただけると、経過の把握に大変役立ちます。
嫌がる子には、無理をしないでください。まずは口のまわりを触られることに慣れてもらう段階からです。おやつを使いながら、口角を1秒だけ触る、次は2秒。少しずつ延ばしていくのが、結果的に近道になります。
ホームデンタルケア
犬では、歯垢は約3日で歯石に変わります。歯石になってしまうと歯みがきでは取れませんので、歯垢の段階で落とすことが唯一の予防策です。
理想は毎日のケアですが、いきなり歯ブラシを目指す必要はありません。「口のまわりを触る練習 → 好みの味のデンタルジェルを舐めさせる → 歯ブラシにデンタルジェルを付けて舐めさせる → 少しずつ歯ブラシを動かしていく」の順を、その子のペースで進めてください。当院ではデンタルケア・スターターキットのご用意と初期指導を行っていますので、「何から買えばいいか分からない」という段階からご相談いただけます。子犬・子猫の時期から楽しみながら習慣にできれば、その後の十数年が変わります。
なお、人用の歯みがき粉は使わないでください。犬猫が飲み込むと有害な成分が含まれている場合があります。また、ひづめ、鹿の角、硬すぎる骨、氷などは歯が折れる原因になります。おもちゃの硬さの目安は「人の爪で少しへこむ程度」です。
定期健診とトリミングの機会を活かす
犬や猫の時間は人間よりも数倍早く進みます。7歳以上のシニア期には、1年に2回の定期健診が望ましいでしょう。当院ではこの健診の際に必ず口の中も確認しています。異常がなかった結果も、次回との比較データとして重要な意味を持ちます。
また当院では、併設のトリミングサロンをご利用いただく際に、獣医師が事前の健康チェックを行っています。定期的に通ってくださっている子は、それだけ口の中を見る機会が多いということです。シャンプー前のチェックで歯石や歯茎の炎症に気づき、そこから歯科診療につながったケースが、継続的にあります。
「無麻酔の歯石取り」について
麻酔をかけずに歯石を取るサービスを見かけることがありますが、当院ではお勧めしていません。理由は三つです。
第一に、歯周病の本体である歯肉縁下(歯周ポケットの中)の処置ができず、見た目がきれいになるだけで病気は進み続けること。第二に、器具による口の中の裂傷や、剥がれた歯石片を飲み込んでしまうリスクがあること。第三に、押さえつけられた恐怖体験によって、その後の口周りのケアや通院そのものを強く嫌がるようになってしまうことです。
私たちが最も懸念しているのは、表面の歯石が取れたことで安心してしまい、本当の治療の機会が遅れることです。すでに受けられた方を責める意図は、まったくありません。今の状態を確認するところから始めましょう。
よくあるご質問
15歳の高齢犬です。麻酔をかけて歯石を取ることはできますか?
年齢だけを理由に処置をお断りすることはありません。大切なのは実年齢ではなく、心臓・腎臓・肝臓といった臓器の状態です。血液検査、必要に応じてレントゲン検査を行い、客観的に評価します。当院は開院から20年経っておりますので、長く通ってくださっている子であれば過去のデータと比較でき、より精密なリスク評価が可能です。むしろ、重度の歯周病を抱えたまま高齢になっていくほうが、慢性的な痛みと細菌感染で全身に負担がかかり続けます。
麻酔中に何かあったらと思うと不安です。どのような管理をしていますか?
麻酔前検査でリスクを評価したうえで、気管挿管で気道を確保し、処置中は麻酔器と生体モニターで心拍数・血圧・酸素飽和度・呼気中の二酸化炭素濃度・体温を継続的に監視しています。歯科処置では獣医師2名体制をとり、術者が口の中に集中する間、もう1名が麻酔とモニターの監視に専念します。また、先制鎮痛を行うことで麻酔薬の使用量そのものを抑えられるため、体への負担が軽くなります。
歯石を取る処置はどのくらい時間がかかりますか?入院は必要ですか?
歯石除去のみの軽度な症例でおよそ1時間、抜歯を複数本伴う症例で2時間から2時間半程度が目安です。ペットホテルを併設しておりますので、術後にゆっくり休ませてからお返しすることも可能です。多くの場合は日帰りですが、高齢であったり麻酔時間が長かった場合などは入院して点滴をしたり、いったん退院して自宅で過ごし、通院で点滴をすることもあります。
歯を抜いたら、ごはんが食べられなくなりませんか?
最も多くいただくご質問です。結論から申し上げると、抜歯後もほとんどの子が問題なく食べられるようになります。犬や猫は、人のように歯ですりつぶして食べているのではなく、噛み切って飲み込むという食べ方をしています。また、抜歯が必要と判断される歯は、すでに支えを失ってぐらついていたり、痛みの原因になっていたりする歯です。痛い歯を残しておくほうが食欲低下の原因になり、抜いて痛みがなくなったことで食欲が戻る子のほうが実際には多いのです。
口の中にできものがあります。歯茎の腫れとの違いはどう見分けますか?
見た目だけで確実に見分けることはできません。歯周病による腫れと腫瘍による腫れは、初期の段階では非常によく似ています。判断の材料になるのは、片側だけに起きているか、急に大きくなっていないか、出血しやすくないか、歯周病の治療をしても改善しないか、といった点です。当院では、少しでも疑わしい場合には細胞診を行います。細い針で細胞を採る検査で、体の表面であれば多くは麻酔なしで可能です。口の中の場合は、必要に応じて麻酔下で行います。院内で染色し、約15分で判定できます。
費用はどのくらいかかりますか?
麻酔前検査、麻酔、処置内容(抜歯の本数、外科処置の有無)、体重によって変動します。初回のカウンセリング時に、想定される処置と費用の見通しを事前にご説明し、ご家族が無理なく続けられるプランを一緒に考えます。その場でご判断いただく必要はありません。
かかりつけが他にありますが、歯科だけの相談もできますか?
もちろんです。セカンドオピニオンとして、これまでの検査データをお持ちのうえご相談ください。他院で抜歯を勧められて迷っておられる、という段階でのご相談も歓迎します。かかりつけの先生との連携が必要な場合は、その点もあわせてご相談させていただきます。
歯みがきを全然させてくれません。どうしたらいいですか?
無理に押さえつけて行うと、かえって口を触らせてくれなくなります。当院では、その子の性格とご家族の生活リズムを伺ったうえで、できる段階から始める方法をご提案しています。口のまわりに触れる練習だけの週から始めて構いません。デンタルケア・スターターキットのご用意と初期指導も行っていますので、診察の際にお声がけください。
CTが必要と言われた場合はどうなりますか?
顎の骨への広がりや鼻の中への進展を立体的に把握する必要がある場合、CT検査が必要になります。当院はCTを保有しておりませんので、麻布大学附属動物病院など連携する二次診療施設にご紹介して実施します。院長自身が麻布大学腫瘍科に5年間在籍しておりましたので、どのような検査が行われ、その結果から何が分かるのかを、事前に具体的にご説明できます。検査結果は当院で共有し、その後の方針を飼い主さまと一緒に決めていきます。
まずは「口の中を見せていただく」ことから
歯科のご相談に、「まだ早い」も「もう遅い」もありません。歯石が気になり始めた方、他院で抜歯を勧められて迷っている方、高齢で麻酔に踏み切れない方——どの段階のご相談も歓迎します。処置を受けるかどうかは、お話を聞いてから決めていただいて構いません。
飼い主さまがこの分野で抱える悩みの多くは、「全身麻酔をかけてまでやるべきなのか」という葛藤です。放っておけば痛みが続くと分かっていても、麻酔のリスクを思うと決断できない。その気持ちは当然のものです。
だからこそ当院は、まず麻酔をかけずにできる範囲で、いま何が起きているのかをお伝えすることから始めます。そのうえで、処置をした場合に何が良くなるのか、しなかった場合に何が起こるのかを、医学的な見通しとして正直にお話しします。ご家族が「自分たちで選んだ」と思える決断を支えることに徹します。
そして、口の痛みが取れた子の変化は、はっきりと目に見えます。食欲が戻る、顔を触らせてくれるようになる、おもちゃで遊び始める。「歯石取り」と聞くと美容的な処置に思えるかもしれませんが、これはその子の毎日の質をまるごと変える医療です。
横浜市青葉区・青葉台エリアはもちろん、市外・県外からのセカンドオピニオンのご相談もお受けしています。
お問い合わせ
口の痛みを取り除き、最後までおいしく食べられるように。
横浜市青葉区・青葉台エリアで犬・猫の歯科・口腔外科のご相談は、レオどうぶつ病院までお気軽にお問い合わせください。「相談だけ」のご連絡も歓迎します。
- お電話:045-960-0199
- 診療時間:9:00~12:00/15:00~19:00
- 休診日:木曜(終日)、日曜午後、祝日午後
- Web予約・LINE予約にも対応しています
- 所在地:〒227-0045 神奈川県横浜市青葉区若草台10-1 プラトゥモリ1F(「若草台」バス停前・駐車場あり)
レオどうぶつ病院





