パグの多発型肥満細胞腫へのステロイド、外科、光線温熱療法の併用
症例は12歳齢のパグ。左後肢の指にしこりができたことに気付きました。
8日前に健康診断を行った時にはしこりは存在しませんでした。
しこりは左後肢第2指の内側にΦ1.5×1.0㎝で存在し、軟らかくやや赤みを帯びていました。
細胞診を行うと細胞質に顆粒を豊富に含む肥満細胞がたくさん採取され、肥満細胞腫と診断しました。
細胞診後は針の刺入部からの出血が止まりにくく、顆粒による副腫瘍症候群のひとつであるダリエ兆候を認めました。
このワンちゃんは過去にも3回肥満細胞腫の切除手術を行っており、多発型の肥満細胞腫の新病変が発生したと考えられました。
治療の基本は外科的な拡大切除ですが、大きく切除するには断指術などが必要であると考えられました。
パグは肥満細胞腫の好発犬種であり多発型も多いのですが、腫瘍の悪性度(グレード)は低い事が多く、実際に過去3回の肥満細胞腫はグレードⅠ‐Ⅱ、グレードⅠ、グレードⅠであり、局所再発や転移はありません。今回の発生も再発ではなく新病変であると考えられました。
そこでまずはステロイドで内科的に縮小を狙うこととしました。
2週間後の再診時には指の肥満細胞腫の軟化・縮小傾向が認められました。
しかし肛門の左下、会陰部に新病変が出現し、細胞診で肥満細胞腫である事を確認しました。
会陰部 の肥満細胞腫に関してはステロイドを服用している間での出現であることから、ステロイドの継続による縮小は望めないと考えられ、外科拡大切除を予定しました。
縮小した指の肥満細胞腫に関しては機能を温存しながらの対症的な辺縁切除で病理検査を行うこととしました。
辺縁切除をした指の肥満細胞腫はグレードⅠと診断され、切除マージンにも腫瘍細胞が認められました。
切除創の縫合後の機能障害はなく、歩行も可能でした。
会陰部の肥満細胞腫はグレードⅡと診断され、切除した組織の中にもう一つ小さな肥満細胞腫が存在していました。
指の術創は術前より腫瘍細胞が残存することを想定し、術中に光感受性の色素剤(インドシアニングリーン)を散布し、手術翌日にレーザー光による光線温熱療法を行いました。
温熱療法は正常組織と腫瘍細胞の耐熱能の違いを利用した治療法で、色素剤の付着した部位は効果的に温度が上昇し、マージン部の腫瘍細胞にターゲットとしました。
また、術創へのレーザー照射による癒合促進と疼痛軽減の効果も狙いました。
術後1カ月の再診時、指の術創に再発はなく、歩行も良好でした。
会陰部の術創も再発はなく、排便排尿も正常にできました。
術後2カ月現在、定期検診で経過観察中です。