悪性乳腺腫瘍の表層に肥満細胞腫が同時発生した犬の1例 レオどうぶつ病院腫瘍科 青葉区 鴨志田町 大場町 恩田町
11歳齢、雌のロングコートチワワ。昨夜、乳腺部のしこり見つけて来院しました。
腫瘤は右第5乳腺部皮下に存在し、皮膚や底部組織への固着は認めませんでした。
腫瘤はφ8×6㎜大で硬く、表層の皮膚には内出血斑がありましたが、気にして舐めているわけではなく、自壊もしていませんでした。
腫瘤の細胞診を行うとシート状に細胞集塊が採取され、存在部位から乳腺腫瘍を疑いました。
触診上、鼠径リンパ節の腫脹はなく、胸部X線検査で肺転移を疑う所見はありません。
T1N0M0 ステージⅠの乳腺腫瘍疑いと診断しました。
身体検査ではLevine6/6の心雑音を聴取し、心エコー検査で僧帽弁の逆流像を認めました。X線検査では心拡大に伴う気管の挙上を認めました。興奮時には常にチアノーゼを起こすとのことで、まずは僧帽弁閉鎖不全症の治療としてACE阻害剤の投薬を開始しました。
20日後の再診時、乳腺部腫瘤はわずかに増大しており、右の第3乳腺部にも5㎜大の小腫瘤を認めました。
重度心不全のために全身麻酔のリスクは高く、乳腺腫瘍に関しては経過を観察する選択肢を提示しました。
しかし、以前飼われていた犬を乳がんの肺転移で亡くしていた飼い主さんは、たとえ麻酔のリスクがあっても乳腺腫瘍の早期切除をご希望されました。
そこで、なるべく短時間で済ませるように乳腺部分切除術を行うこと、麻酔が安定していた場合には同時に卵巣切除術を計画しました。毎回の発情時に偽妊娠症状を示すとのことから、乳腺腫瘍の発生には性ホルモン分泌異常の関与が疑われました。
手術は心配した麻酔も安定しており、予定通り避妊手術まで行えました。
病理検査の結果
右第3乳腺部は良性腫瘍である乳腺腺腫。
右第5乳腺部は悪性乳腺混合腫瘍。
右第5乳腺部の表層の内出血部位は肥満細胞腫グレードⅠ-Ⅱと診断されました。
術後の経過は良好で、術後1年が過ぎた現在、再発や転移は認めず元気に過ごしています。
今回、乳腺腫瘍の表層の皮膚に肥満細胞腫が発生した珍しいケースですが、乳腺腫瘍と肥満細胞腫の発生に直接の関連があるという報告はありません。術前の細胞診では硬いしこりの部分に針を刺入したため乳腺腫瘍の細胞のみが採取されましたが、表層の内出血のある部分を吸引していたら肥満細胞腫が術前診断できていたかもしれません。肥満細胞腫と分かっていた場合には、もっと大きく切除することを検討したかもしれません。今回、短時間で小さな切除で済ませ、再発せずに済んだのはラッキーだったのかもしれません。