犬の唾液腺嚢腫は唾液腺が何らかの原因で傷つき、下顎部や舌下部などに唾液が貯留する疾患である。唾液腺が傷つく原因は、特に外傷などもない特発性のことも多い。貯留部分からは粘性の唾液が吸引排出されるが再び貯留し、最終的には患側の唾液腺(下顎腺~舌下腺)切除が適応となるが、手術後の再発率も比較的多い。今回、犬の唾液腺嚢腫の内科的治療として、人の唾液腺嚢腫での治療報告を応用して、吸引後に囊胞内にOK-432(ピシバニール)の注入を行った。

症例は8歳齢、未去勢雄のトイプードル。一昨日より喉の辺りが腫れてきたと来院しました。
痛みや痒みはなく、元気や食欲もいつも通りです。
左頸部の膨らみをエコー検査すると液体が貯留していることが分かり、唾液腺嚢腫を疑い吸引処置を行いました。

半透明な粘性のある液体を27ml吸引しました。液体の塗抹を顕微鏡で検査すると多数の炎症細胞を認め、抗生物質と非ステロイド系消炎鎮痛剤の治療を開始しました。翌日には再び貯留し、23ml吸引除去しました。

その後、1~2日に一度、吸引処置を行いました。その後も改善傾向は見られず、治療開始から6日目には唾液腺を切除する外科的な治療をお勧めしました。再発リスクもある手術であることから、2次診療施設の受診もお勧めしましたが、このまま内科的に治療をしていきたいとのご希望でした。

そこで人の唾液腺嚢腫で報告のある「OK-432嚢胞内注入療法」を試すこととしました。
貯留液を吸引排出した後にOK-432(ピシバニール)を嚢内に注入しました。

その後も貯留は続きましたが、3回目の薬剤注入後より貯留が軽減し始めました。
しかし、3回目の投与から2週後には再び以前と同じぐらい貯留しました。
ご希望により、治療を継続することとしました。通算7回目の注入後より貯留は軽減し、徐々に膨らみは消失しました。

余談ですが、治療終了後から長年の原因不明の脱毛(いわゆる脱毛症X)が改善し、黒々とした被毛の発毛が認められました。


今回使用した薬剤ピシバニール投与により免疫やホルモン等、何らかの変化が起こった可能性があります。

レオどうぶつ病院