ブレオマイシン投与で縮小した16歳トイプードルの上顎に急速増大した悪性腫瘍
16歳メスのトイプードル。4カ月前に口を触るのを嫌がり、右上顎の先端に膨らみを認め、出血しているのに気付いたと来院しました。

腫瘤は右上顎の犬歯から第2-3切歯の歯肉に発生し、右第3切歯は前方に変位していることから上顎骨への浸潤が疑われた。

反対側と比べると違いがよくわかる。

レントゲン検査を行うと腫瘤底部の上顎骨の溶解像が認められた。肺への転移は認めなかった。

腫瘤の細胞診では核形状の不正が見られる紡錘形~不定形細胞が認められ、悪性腫瘍が疑われた。細胞内に明らかなメラニン色素は認められなかった。

以上の所見から、乏色素性悪性黒色腫(メラノーマ)などが疑われたが、確定診断には組織検査が必要であった。口腔内に発生する乏色素性メラノーマは非常に悪性度が高いことが多く、治療が困難であることが予想された。
理想的には上顎骨を含めた腫瘍切除手術と術後の化学療法、放射線治療などが考えられたが、高齢であることから、オーナーは外科切除や放射線療法は希望せず、調子を崩さない範囲での化学療法を希望された。

右上顎腫瘍は急速増大し、口の外に突出した腫瘍は出血しやすい状態となった。

化学療法は2週に1回ブレオマイシンを皮下注射。低用量の非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服を開始した。同時に自壊した腫瘍の化膿止めと鼻炎の治療を兼ねて、持続性の抗生剤注射投与を行った。
ブレオマイシン投与による副反応は認めず、腫瘍の急速増大は止治まってきた。しかし、鼻炎症状は強くなってきた。
治療開始から2カ月、4回目のブレオマイシン投与が終わったところで腫瘍の一部が壊死して脱落した。

腫瘍が脱落して縮小したことにより、口からの腫瘍の突出はなくなり、食事も自力で食べるようになった。しかし鼻炎症状は悪化し、くしゃみが止まらなくなり再び食欲は低下した。右の鼻筋は腫脹し、腫瘍の鼻腔内浸潤が疑われた。
ブレオマイシンと抗生剤の投与を継続した。

6回目のブレオマイシン投与後にくしゃみが激減し、再び食欲が出てきた。外見上は腫脹は目立たない。唇をめくると縮小した歯肉の腫瘍が確認された。

7回目のブレオマイシン投与が終わり、腎数値の上昇が認められたため、非ステロイド系消炎鎮痛剤の投与は中止した。くしゃみはほとんどなくなり抗生剤投与も終了とした。

現在、治療開始から3カ月半。調子は比較的良好。腎臓をケアしながらブレオマイシンの投与を継続中である。
レオどうぶつ病院








