症例は日本猫12歳齢、避妊済雌。
1か月前より鼻のしこりが増大し来院した。

腫瘤は左眼内側の前頭部に存在し、
約3cm大に増大し硬く弾力性があった。
くしゃみや鼻水などの鼻炎症状はなく、
しこり以外の臨床症状はなかった。

悪性腫瘍を疑い各種検査を行った。
レントゲン検査では腫瘤底部の骨に溶解病変は認めず、
胸部にも異常を認めなかった。
血液検査を行ったが特に異常は認めなかった。

そこで前頭部腫瘤より細針吸引細胞診を行った。
大型のリンパ芽球様細胞を多数認めリンパ腫を疑った。
オーナーとの話し合いの中で、確定診断を付けるための
それ以上の詳細な検査は行わず、
診断的な治療を開始することとした。

L-アスパラギナーゼとプレドニゾロン(ステロイド)を投与すると、
帰宅後にはしこりが縮小し始めたとのことだった。

2日後に再来院した際にはしこりはほぼ消失していた。
劇的な治療効果からしこりは予想通りリンパ腫であると
考えられ、本格的な化学療法開始についてご説明した。

しかし毎回の来院のたびに車中では口を開けて舌を出し
ながらのパンティング呼吸と泡状の流涎が止まらず、
帰宅すると疲れ果ててしまう状態であった。
来院には重度のストレスが伴うことが予想されたため、
予定していた化学療法は中止し、
ご自宅でのステロイド剤の投与で維持することとした。

その後、外見上しこりは完全に消失した。
ステロイドは20日間投薬し休薬とした。

治療開始から4カ月半、前頭部のしこりが
再増大しリンパ腫の再燃を認めた。
前回同様の治療を再開した。前回同様に治療の反応は良く、
翌日には急速に縮小し数日の間にしこりは消失した。
今回も来院の車中では開口呼吸をし、
ストレスによる下痢もしたため、この後は
状態に応じて自宅でのステロイド投与を約1か月行った。

その後、治療開始より7ヶ月、8カ月、8カ月半で再燃を認め、
その都度ステロイドの投与で持ち直していたが、
徐々に効果が弱く、反応期間も短くなり、
治療開始より9か月目にご自宅にて亡くなった。

前頭部や鼻腔など、リンパ組織以外に発生する
節外型リンパ腫に対して化学療法や放射線療法単独でも
比較的長期間維持できることもある。
しかし、治療に反応しない場合や短期間で再燃することもある。
化学療法と放射線療法との組み合わせがより効果的であったとの報告もある。

猫は概してストレスを受けやすい動物であり、
来院や治療がストレスとなることも多い。
抗がん剤治療をする上で定期的な血液検査は、
敗血症などの副作用を出さないために重要な検査である。
しかし、今回のようにステロイド単独でもある程度の効果が
あるのならば、そこまで厳密な検査は必要とせず、ステロイドの
使い方を指導することで来院のストレスを減らすことができ、
猫にとってはより快適な治療となるのではないかと考えている。

レオどうぶつ病院