精巣腫瘍を放置すると雌性化や貧血、リンパ節転移することも
左右の睾丸の大きさが違う。片方がだんだん大きくなってきた。
それは精巣腫瘍かもしれません。
精巣腫瘍は未去勢のオス犬では最も発生率の高い腫瘍のひとつです。
早期に摘出手術を行えば完治する可能性が高い腫瘍ですが、放置して進行すると命取りになることもあり注意が必要です。
精巣はお腹の中で発生し、生後間もなく内股の辺りの鼠径管を通ってお腹の外に出て、陰嚢内に治まります。その途中で引っかかって陰嚢まで降りてこれない精巣を停留精巣または陰睾と言います。
停留精巣の場合、精巣が腫瘍化する確率が上がりますので早目に去勢手術を検討することが重要です。特に腹腔内精巣の場合腫瘍化して大きくなった精巣が見えないため手遅れになることがあるのです。
通常の左右とも陰嚢に収まった精巣では、陰嚢近くの一か所の切開部位から両側とも摘出します。
鼠径部停留精巣の犬の写真です。陰嚢内には精巣は一つしかなく、右の内股の辺りが膨らんでいるのが分かります。
鼠径部(そけいぶ)停留精巣では2か所の術創となります。
摘出した精巣は既に左右の大きさに違いがあるのが分かります。
陰嚢内にひとつしか精巣がなくて、内股の部分(鼠径部)にもなさそうな場合、おそらく腹腔内に精巣が残っています。
小さな精巣では画像検査で確認することは難しく、開腹して探します。
写真は生後7ヶ月で去勢手術を行う際に片側の精巣が見つからず、開腹して腹腔内から取り出した精巣です。
このまま放置していたら、いずれ腫瘍化していたことでしょう。
多くの精巣腫瘍は摘出術により完治しますが、セルトリー細胞腫などでは放置すると腫瘍からの女性ホルモン(エストロジェン)の分泌により雌性化が起こったり、非再生性の貧血を引き起こします。また、進行するとお腹の中の腰窩リンパ節転移、さらには遠隔転移も起こるので要注意です。
写真の犬は鼠径部の停留精巣が腫瘍化し急速に増大してきました。
雄犬ですが乳房が腫大したり、包皮が下垂したり雌性化が認められました。
重度の心臓病を抱えた高齢犬であるため手術は出来ず、残念ながら貧血が進行して亡くなりました。
健康診断で腹腔内にしこりが見つかった犬です。超音波画像では黒く見える膀胱の隣に8㎝大の大きなしこりが確認されました。去勢手術は子犬の頃に行っていましたが、片方しか精巣がなかったとの事でした。
摘出手術の結果、取り出したしこりは腫瘍化した腹腔内精巣でした。
腫瘍は摘出できましたが、その後腹腔内のリンパ節に転移が認められました。
放射線療法を行いましたが増大を止められずに亡くなりました。
停留精巣が疑われる場合には早めに摘出しておくことが重要です。