ブレオマイシン投与により縮小した、犬の皮膚に多発した上皮性悪性腫瘍
10歳齢、雄のトイプードル。約半年前に左後ろ足の外側に一か所5㎜大のしこりを認めました。
最近、トリミングに行った際に全身の皮膚にしこりが多発していることを指摘されました。
体表には10か所近い大小の腫瘤が増数・増大していました。
針生検を行うと悪性腫瘍を疑うが、確定診断には組織検査が必要とのことでした。一般状態は良好でレントゲン検査では遠隔転移を疑う所見はありません。そこで、今後の治療方針を決めるためにも全身麻酔下での診断目的の切除生検を実施しました。多数のしこりの中から、急速増大して表面が自壊と出血をしている、2か所の腫瘤を切除しました。
2.7㎝大の頭頂部腫瘤。
もう一か所は2㎝大の左頸部腫瘤。
病理組織検査の結果はいずれも上皮性悪性腫瘍と診断されました。現在分類されている腫瘍には当てはまらずに、これ以上の診断名は付かないとのことでした。
体表に増大しながら増え続ける病変を全て手術で切除するのは現実的ではありません。全身療法としての化学療法(抗がん剤治療)を検討しましたが、診断名もつかない腫瘍に対しての治療データはありません。一般的には上皮性悪性腫瘍に対する抗がん剤の効果は補助的なものです。
そこで、人の皮膚癌に効果を示すブレオマイシンの注射と、同時に非ステロイド系の消炎鎮痛剤の内服を検討しました。犬や猫に対するブレオマイシンの当院での使用経験では、比較的に副作用が少なく使いやすい薬です。
週に一回の皮下注射を行ったところ、すぐに効果が表れてすべてのしこりが縮小し始めました。5回目の投与後に2日間元気がなくなったとのことでしたが、血液検査では大きな異常は認められませんでした。
いったん休薬して2週間経つと、いくつかの新病変が発生したため、週に一回のブレオマイシンの投与を再開しています。