トセラニブの投与で良好に維持している口腔内乏色素性メラノーマ疑いの犬
17歳のジャックラッセルテリアが、歯科専門病院での歯周病の治療時に、右下顎歯肉に発生した腫瘤の存在を指摘された。
腫瘤は右下顎犬歯から第4前臼歯の歯肉外側に発生し、表面はもろく出血していた。
悪性腫瘍を疑い細胞診を行ったが、血液以外に有意な細胞は採取されなかった。
そこで抗生物質とインターベリーによる歯周炎の治療を行ったが、腫瘤は徐々に増大を続けた。
再度の細胞診を行うと悪性腫瘍を疑う細胞が多数採取された。
外注検査結果
細胞診所見と腫瘍の肉眼所見とから乏色素性悪性黒色腫と診断されました。
一般に悪性黒色腫はメラニン細胞の色素で黒色のしこりを形成することが多いのですが、細胞分裂速度が速く未熟な細胞が多い悪性度の高い腫瘍細胞は、メラニン色素を産生する間もなく増殖する為にしこりは黒くなく、乏色素性悪性黒色腫と呼ばれます。
口腔内に発生する悪性黒色腫は悪性度が高いことが多く、乏色素性悪性黒色腫にもよく遭遇します。腫瘤は口腔内で急速に増大し、自壊して出血し、化膿して口臭が強くなります。口の中で増大するので食事をとりにくくなり、喉の奥へと浸潤すると飲み込みにくさや呼吸困難が起こります。高率に喉の奥の扁桃リンパや下顎リンパ節に転移し、その後は肺にも転移するため、拡大切除をしても根治が難しい腫瘍です。
17歳と高齢ではありますが、体の状態は元気であるため可能性に賭けて分子標的薬であるトセラニブ、商品名「パラディア錠」の使用を検討しました。
パラディア錠は犬の肥満細胞腫の中でも治療困難なグレードⅡやⅢの治療薬として発売されています。今回は治療困難な乏色素性悪性黒色腫に対する効能外使用となります。
治療を始めて2週後の診察では急速増大を続けていた動きが止まりました。
心配した副作用も起こらずに過ごせ、現在治療開始より2か月。腫瘍はやや縮小傾向です。