メトロノミック化学療法 がんの休眠療法 ペットのがん 麻生区 町田市 青葉区
12歳のアフガンハウンドが左胸壁のしこりを主訴に来院しました。
既往歴として9か月前に下顎先端に発生した扁平上皮癌を高度医療センターにて顎骨切除しています。
しこりは硬く、Φ4×3.5×1.5cm大で底部固着が認められました。
胸部レントゲン検査ではしこりはクリップでマークした部位、左側第4-5肋骨の間に存在し、胸腔内に大きく突出していました(赤矢印)。
それとは別に左肺後葉領域にもしこりが存在しました(緑矢印)。
左胸壁のしこりの細胞診では優位な細胞は得られず、しこりの本体はより奥の胸腔内に存在することが予想されました。
また、左肺後葉に存在するしこりが胸壁に存在する悪性腫瘍の肺転移病巣なのか、胸壁のしこりとは関係のない肺原発の病変なのかで治療方針も変わってくる事が予想されました。そこで、高度医療センターで過去のCTデータと比較して精査することとしました。
高度医療センターでの精査では10か月前のCT検査でもいずれのしこりも確認されていましたが、増大傾向があるため腫瘍性疾患が疑われるとの事でした。
胸壁のしこりの病理組織検査の結果は肉腫NOS(非上皮性悪性腫瘍)と診断されました。
肺の病変の増大速度も比較的緩徐であることから原発性の肺腫瘍などが疑われましたが、深部に存在し組織採材にはリスクを伴うために診断は付けていません。
治療方針を検討した結果、飼い主さんは当院でのメトロノミック化学療法を希望されました。
メトロノミック化学療法はがんの休眠療法とも言われる低用量の化学療法です。
通常、化学療法は高用量を使用してがんを叩くのを基本としますが、高容量になると副作用も強く出ます。
根治の可能性の低い進行したがんでは強力な化学療法を行う事で患者の免疫を下げてしまう事が考えられます。
メトロノミック化学療法は低用量の抗がん剤を持続的に使用することでがんの増殖をゆっくりとさせ、がんと共存していく事を目的としています。高齢犬が寿命をまっとうするまでがんを休眠させて共存するのです。そのため、抗がん剤の副作用を出さないように調節して続ける事が大切です。
今回はシクロホスファミドという内服の抗がん剤とNSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)の組み合わせを使用しました。
治療開始後も調子を崩す事もなく、NSAIDsの効果で歩行や起き上がりがスムーズになりました。
定期的な血液検査で腎臓のパネルの上昇傾向が認められたため、NSAIDsを減薬して継続しました。
治療開始1ヶ月後の胸部X線検査ではしこりはやや不明瞭になり増大は認めませんでした。
がんが明らかに増大しない事を目的としていますので、うまくいっていると考えられます。
治療開始から3カ月。がんと共存しながら調子良く過ごしています。