ACNU投与が奏功したバーニーズの肺に発生した組織球肉腫
花梨ちゃんは7歳のバーニーズ・マウンテンドッグの女の子。健康診断で肺のレントゲンにしこりを認め、細胞診により組織球肉腫が疑われ、当院に紹介受診しました。
当院初診時、胸部レントゲン検査にて右肺中葉領域に不透過像を認めました。
臨床症状はなく、血液検査でも大きな異常は認めません。麻酔をかけての確定診断は希望されず、犬種と細胞診の所見から肺に発生した組織球肉腫と臨床診断し、治療を開始することとしました。組織球肉腫は局所療法として肺葉切除を行うこともありますが、多くの場合は早期に再発や転移が起こり播種性組織球肉腫に移行するため、全身療法である化学療法を行います。しかし、抗がん剤の反応は悪く診断後の予後は厳しいと言われています。
さまざまな抗がん剤の中でCCNUという薬の効果が報告されています。
そこでCCNUによる化学療法を開始することにしました。
輸入薬であるCCNUはコロナの影響もあり現在入手困難となっています。
4週に一度のCCNUの治療は心配した大きな副作用もなく行うことができました。
その頃、お家にはもう一頭の若いバーニーズの女の子、リロちゃんを迎えました。一緒に遊んだりすることで、花梨ちゃんは今まで以上に元気が出てきました。
治療開始から2ヵ月。3回目の投薬をする頃には肺の病変が縮小しました。
CCNUは腫瘍の縮小効果を認めましたが、血液検査で副作用の一つである肝臓の数値の上昇を徐々に認めました。
そこでCCNUの投与は3回で終了し、その後はACNUに切り替えることとしました。
ACNU(ニドラン注)は日本の薬であり、入手困難となったCCNUに替わる薬として使われ始めています。
3週に一度、静脈注射を行いました。心配した副作用は認めず、肝臓の数値も徐々に改善しました。
3回目のACNUを投与する頃には旅行に出かけたりして、元気に8歳の誕生日を迎えました。
治療開始から5ヵ月。5回目のACNUを投与する頃には肺の病変がわずかに目立ち始めました。
本人は至って元気で、リロちゃんと毎日散歩をしていました。
治療開始から6ヵ月。7回目のACNU投与の頃には、喉が絡んで咳をするようになりました。レントゲンでは肺の病変の増大を認めました。
肺炎予防の薬の内服を始めました。
治療開始から7ヵ月。熱が高くなり食欲が落ちる日があり、抗がん剤治療は中断しました。
肺炎の治療として自宅でのネブライザー療法を開始しました。
一時、血便になり食欲もなくなりましたが、ネブライザー療法の効果が出て呼吸は安定し、少しずつ食べるようになりました。
状態は大分安定し、もう一度可能性にかけてACNUを投与しました。
その後も落ち着いていたため、久しぶりのグルーミングの予定や、次の旅行も計画していました。
治療開始から8ヵ月。その日も大好きなジャーキーを沢山食べて落ち着いていましたが、夜間に苦手な雷をきっかけに呼吸が苦しくなりました。ネブライザーの吸引により呼吸は落ち着き眠ることができましたが、未明に穏やかに息を引き取りました。
バーニーズやフラットに好発する組織球肉腫は、急速に進行して早期に亡くなることが多い病気ですが、今回ACNUの投与により8ヶ月間ではありましたが延命することができました。その間、元気に旅行に行ったり、飼い主さんと楽しく過ごした時間は貴重なものだったと思います。
花梨ちゃんのご冥福をお祈りいたします。(6/26加筆しました)