フレンチブルの臀部に発生した皮膚肥満細胞腫グレードⅢ の分子標的薬を使用した長期管理
8歳オスのフレンチブルドッグの左臀部に急速増大したしこりを外科切除し、病理検査の結果は皮膚肥満細胞腫グレードⅢであったと来院されました。今回は腫瘍の相談と術後化学療法を希望されています。
犬の皮膚肥満細胞腫は犬の皮膚に最も多く発生する悪性腫瘍であり、グレードⅠ~Ⅲまで悪性度の分類がされています。悪性度の低いグレードⅠの肥満細胞腫はパグやレトリバーなどの犬種に好発し、外科切除により治すことが可能です。一方、グレードⅢの肥満細胞腫は外科切除のみでのコントロールは難しく、再発や転移により早期に亡くなる可能性が高いとされています。
今回の病理検査結果では悪性度(グレード)判定はPatnaik分類ではグレードⅢで、1500日生存率は6%(グレードⅠでは83%)、Kiupel分類では高グレードで、生存期間の中央値は3.7か月と予後予測されました。
そこで術後の補助的化学療法として、イマチニブによる分子標的療法を計画しました。
1日1回のイマチニブとステロイド、抗ヒスタミン剤、H2ブロッカーの服用を始めて1か月ほどで頻回の嘔吐を認め、イマチニブを1日おきの投与に減薬しました。外科手術から1-2か月の間認められた術創近くの赤いふくらみは徐々に目立たなくなりました。その後、調子は安定し投薬開始より3か月目にステロイドを低用量に減薬しました。
現在、再発や転移もなく治療開始より2年が過ぎました。好中球減少に注意しながら治療を継続中です。