腹囲膨満で来院した犬に認めた心嚢水の抜去により腹水も消失
10歳オスのジャックラッセルテリアが一週間前からの腹囲膨満により動きが悪いと来院しました。
先ほど、帰宅した飼い主のお迎えに玄関に行った際に、パタッと横に倒れたとのことでした。
腹部エコー検査を行うと腹水の貯留を認めました。
エコー検査では尿などの液体が黒く写ります。上のエコー写真のUBが膀胱です。
通常はお腹の中には尿以外には液体の貯留はありませんが、この写真では膀胱の外側も黒く見えます。これが腹水です。
腹水の中に腸管が浮かんでいる様子が見えます。
今回はお腹の張りだけでなく、急に倒れたことが気になります。胸部のエコー検査も追加しました。
心臓の周りが黒く見え、液体が貯留していることが分かります。心嚢水貯留です。
これが倒れた原因です。心臓の周囲に心嚢水が貯留すると、拍動を続ける心臓に大きな負担がかかります。
水の中で運動をし続けているような状態なのです。緊急的に心嚢水を抜去する必要があります。
心嚢水貯留の原因には心臓腫瘍の破裂などによる血液貯留が多いのですが、今回の検査からはしこりの病変は確認されず、特発性心嚢水貯留として心嚢水抜去術を行いました。動いている心臓のすぐ横に針を刺しますので慎重に行いました。
一方、腹水は心機能が戻ることで自然消失するであろう事を予測して、検査目的で少量のみ採取としました。
上は心嚢水抜去後のエコー写真です。心臓周囲の黒い部分が無くなり、心嚢水が大部分無くなったことを確認しました。
抜去後は調子も戻り、腹水も徐々に引いたことから、循環不全により生じた腹水貯留であったことが確認されました。
特発性心嚢水貯留は再発率の高い疾患ですが、今のところ再発なく過ごしているとのことでした。